悲鳴はすでに聞こえていた!小室哲哉の作詞に覗く引退の前兆

DSC_9339_fixw_730_hq2018年1月、日本中に衝撃が走った。

音楽プロデューサー、小室哲哉の引退。

90年代、「コムロブーム」「小室ファミリー」とも言われ、小室哲哉氏のプロデュースするアーティストが軒並みミリオンヒット。

ダンスユニットTRF、今年奇しくも同年に引退となる安室奈美恵、同氏も在籍するglobeなど、CD売り上げは約1億7000万枚とも言われる。

引退の直接的な原因は報道でも知るところとなっている不倫疑惑であるわけだが、100分にも及ぶ会見の中から、小室氏が引退を決意したそれとは別の理由を垣間見ることができる。

小室哲哉が19日午後、記者会見を開いた東京都港区のエイベックス本社には150人の報道陣が集まった。たった1人で着席した小室は頭を深く下げた後、静かに話し始めた。支離滅裂な言い分、意味不明に思えた発…

小室哲哉が音楽に込めた思いとは何か。

2008年の『5億円詐欺事件』を一つの区切りとし、それ以後の作品を中心に今回の引退につながる糸口を探ってゆく。

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この日本を何かいい方向に・・・

2018年1月19日午後、エイベックス本社で引退会見を行った小室氏。

100分にも及ぶ説明と記者の質問に対する応答を終え、会見がまさに終わろうとするとき、小室氏はこう遮った。

「最後に一言だけ、すみませんです。」

 ここからの言葉に、小室氏の全てを感じることができる。

僕たった一人の人間の言動などぜんぜん、日本であったり、社会が動くとはまったく思ってませんが、先ほども言いましたように、高齢化社会に向けて、介護の大変さであったりとか、それから社会のこの時代のストレスであったりだとか、少しずつですけれど、この 10 年でふれてきているのかなと思っているので、こういったことを発信することで、この日本を何かいい方向に、少しでもみなさんが幸せになる方向に動いてくれたらいいなと、心から思っております。微力ですが、少し何か、響けばいいなと思っております。 

 2011年にくも膜下出血により脳に障害を負った、妻でありglobeのボーカルでもあるKEIKOを看病してきた小室氏。

日本がおかれた状況、そして社会の流れに対して、当事者として強い思いと苦しみを抱えていたことが感じられる。

社会の焦燥感、弱者と強者、個人主義、不透明な将来・・・

小室氏はこの10年で、一体どんな時代の断片を「作詞」という方法で現代に訴え続けてきたのだろうか。

まずは、詐欺事件後に公に楽曲提供を再開し始めた2010年の作品。

Be with you(SUPER☆GiRLS)2010

心ない人の声 気にしてたら壊れちゃう

どうにかして この街で

生き抜いていかなきゃ

楽曲は、ポップで明るく、まさにガールズグループにぴったりな王道路線と言える。

しかし、歌詞の中に詐欺事件後の小室氏の決意ともとれるフレーズが見られる。

無責任に発せられた心ない人々の誹謗と中傷。

その全てに一喜一憂していては再起はない。

自分の罪を背負いながら、贖罪としての作曲活動を死ぬ気でやり抜かねばならないという決意。

そんな思いを、あえて10代の少女たちの声を借りて伝える。

90年代に一時代を築いたプロデューサーの、当時の作品とは一線を画した強いメッセージ性を感じることができる。

ダイジナコト(AAA) 2011

愛といういう言葉なんて最近感じれない

世の中には、暇つぶして

人と人が揺れて 空回り

愛を感じることができない。

現代の世の中に対してか、それとも小室氏自身の思いか。

このフレーズを、AAAの男性パートに歌唱させる意味。

そして、「愛という暇つぶしによって世の中が空回りを起こしている」と続く。

ダイジナコトは何か。

この曲のリリースが2月。

そして、同年10月に、妻のKEIKOがくも膜下出血により倒れる。

曲の終盤、こんなフレーズが現れる。

大好きな思いこそ、やっぱり大事だね

あなたのため 役に立てる

そんな私になりたい 欲が出る

あの会見の最後のメッセージにつながる思いを、この歌詞から読み取ろうとするのは僻見だろうか。

風華恋(北乃きい) 2011

なごやかに おだやかに 生きのびる人生

過ごしたい いつまでも

無理なのぞみごと

穏やかに生きていきたい。

しかし、それは無理なのぞみごと。

誰の注目も浴びることなく、和やかに生きることさえ許されない。

華やかな生活を、傲慢な時代を、生きてしまった自分自身への罪。

90年代の輝かしい功績が、かえって自分自身を苦しめる。

できるなら 過去の道をたどりたい

もう時代のせいじゃない

まして あなたのせいじゃない

朽ち果てるのか、つなぎとめるのか、

それでも生きていく

ほほえみのちから(ほほえみプロジェクト) 2012

人と人が苦しみ合って 争い合って 忘れていること

雪が溶けて 山が崩れ 森が揺れて 川が溢れて

助け合って なぐさめ合って 強さをもって

ほほえみを持って

人と人が争い合う現代。

そして忘れている大切なこと。

介護の厳しい状況に置かれ、人としてのゆとりを失い、苦しむ人々。

助け合い、慰め合い、微笑み合うこと。

微力ですが、少し何か、響けばいいなと思っております。 」

と会見で述べた小室氏。

楽曲の中盤に、彼のこの謙虚な思いにつながるフレーズを見ることができる。

かけがえのない空の色は今、永遠に続かない

何か出来ること

少しでも動く力 与えて

約束の丘(X21) 2016

目をみつめ

じっくりと しっかりと

話を聴いてあげたね

そうするとだんだんと

答えなんかいらなくなっていた

2016年の作品。

小室氏の引退会見で、3年前ごろから介護に疲れ果ててしまった、と告白している。

ちょうど、その当時の思いが綴られているのではないだろうか。

会見の中で、妻であるKEIKOと日に日に大人の女性としてのコミュニケーションが取れなくなり、10分、5分と短くなっていったと述べている小室氏。

目を見つめ、KEIKOの話に耳を傾ける小室。

そんな光景を思わずにいられない。

How do you feel now?(安室奈美恵) 2017

朝日に寄り添い 夕日にうなずいた

あなたを励まし あなたに癒される

90年代、飛ぶ鳥を落とす勢いで駆け抜けた安室奈美恵をプロデュースしてきた小室哲哉。

現在の安室奈美恵は、彼がスターダムに押し上げたといっても過言ではないだろう。

その安室に、引退を前に最後の楽曲提供をしたというのが本作である。

小室の引退を知るまで、この歌詞に込められた思いは、「安室→ファン」という図式であると疑わなかった。

しかし、小室の引退とあの会見全文を総観すると、この歌詞の主語は「小室氏自身」であるのではないかと読める。

朝日に寄り添い、夕日に頷く妻KEIKO。

日々介護に忙殺されながらも妻を励まし続け、自身の病気(C型肝炎)の後遺症に苦しみながらも、妻の笑顔に癒される・・・

タイトルである「How do you feel now?」

「君は、いまどう感じてる?」

引退する安室に対するメッセージか。

それとも、妻、KEIKOに対するものか。


そして、番外編。

2008年の5億円詐欺事件から4年前。

お笑い芸人である藤井隆に提供した作品がある。

タイトルは「タメイキ」。

90年代の輝かしい時代から一変。

2004年といえば、宇多田ヒカルを中心としたR&Bが主流となり、小室サウンドは過去のものとしてすっかりその勢いを失っていた。

そんな時代に、ひっそりとリリースされたこの曲に、当時の小室氏の思いがにじみ出る。

タメイキ(藤井隆) 2004

今までどれだけ 希望うたえてた

今までどれだけ 明日をうたえてた

王様 あなたも泣いているの?

不平や不満の肩から 平和が羽ばたけよ

今までは、順風満帆な明日を歌うことができていた。

すっかり自分の時代が終わってしまった。

王様、それは一体誰か。

90年代、リリースすればミリオンヒット確実の、あの頃の自分?

それでも、平和を願わずにはいられない。

自分じゃなんにも変えることできない

希望の言葉を唱える日はくるのかな?

それから14年。

60歳を目前にしての引退。

希望の言葉は、まさに「引退宣言」だった。

しかし、これまで残してきた楽曲たちは、これからも輝き続ける。


だれもが耳にした、ミリオンヒット曲の数々。

おそらく、上に挙げた作品は、知名度としてはそれらには到底及ばないだろう。

しかし、引退報道を受けた今だからこそ、奇しくもこれらの楽曲たちにさらに味わいが生まれたように感じられるのは私だけではないはずだ。

願わくは、まだ発表されていない彼の後期の作品たちが一曲でも多く私たちの元に届かんことを。

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