樹のイメージでとらえた学力観『学力の樹』

学力低下が叫ばれて久しいですが、はたと「学力とは何か」と問われて、これと即答できる方はそれほど多くはないのではないでしょうか。
私もそのうちの一人。学力という『目には見えない力』を育てていく立場にあって、「学力とは何か。どんな力が近年低下していて、どのように育み伸ばしていけば良いのか。」ということについて、自分なりの明確なイメージを持つべきだと考えています。

学力の三要素

こちらの書籍に、学力について非常に分かりやすく書かれていました。 学力を育てる (岩波新書 新赤版 )

A.詰め込みできる学力

点数化ができる学力。知識・理解に相当する部分。氷山の一角に例えられるように、学力と呼ばれる中で目に見える部分であると同時に、広義での学力の中のほんの一部。

B.テストで測りにくい学力

テストで測ることは難しいが、学校での成績に大きく関わる学力。思考・判断に関わる部分。

C.点数化できない学力

点数化できないが、学力を伸ばしていくための基盤となる学力。関心・意欲・態度に関わる部分。学力すべての大もととなり、下支えする巨大な部分であるが、水中に隠れて見えない。

氷山に例えて学力の3つの要素を捉えることができますが、それぞれの要素がどのような関連を持っているのか、その関係性までは把握することができません。そこで、『学力を育てる 』の著者、志水宏吉氏は学力を樹のイメージでとらえる学力観を提案しています。

学力の樹

志水氏が提案する『学力の樹』のモデルを左記に図示してみました。

・生い茂る葉−詰め込みできる学力
 (知識・理解)
・しっかり伸びた幹−テストで測りにくい学力
 (思考・判断)
・大地をとらえる根−点数化できない学力
 (関心・意欲・態度)

氷山の例えと大きく異なるのは、3つの要素のどれが欠けても、生きた一体の樹とは言えなくなってしまうという点です。つまり、どれもが必要不可欠でとても重要な一体物であるということです。

(以下『学力を育てる』(志水宏吉著)より引用)

「三つの学力が文字通り一体となって、ひとつの学力の樹を形づくっている」(中略)ひとつでも欠けたら、それは、生きた樹とは言えない代物になってしまう。また、たとえ三つのものがそろっていたとしても、根が貧弱なものであれば、その樹はちょっとした風雨で転倒してしまうだろうし、何らかの事情で葉っぱの生育が不十分であれば、幹や枝葉なかなか太いものにはならないだろう。

「葉」と「幹」と「根」の成長は、渾然一体となったものである。そしてもちろんそこには、十分な陽の光と豊かな土壌、そして適度な気温とたっぷりとした水が必要である。樹は、決して自分の力だけで育つものではない。環境が、樹の育ちに決定的な影響を与える。

葉—詰め込みできる学力(知識・理解)

子どもたちが日々、少しずつ蓄積していく知識や技能の一つ一つが、一枚一枚の葉となっていきます。葉っぱが四季の移り変わりで枯れたり生え変わったりするように、知識や技能も新しく獲得したり付け加えたり、時には削除・更新されたりします。
さらに、葉っぱが光合成という過程の中で植物の生長に必要な栄養分を生成するように、子どもたち一人ひとりが獲得し学んだ知識・理解の一つ一つが、葉が思考力や判断力、表現力といった力を生み出す元となっていると志水氏は述べています。

葉っぱが豊かに生い茂っていれば、陽の光を浴びて十分な栄養を『幹』や『根』に送ることができるように、十分な知識・理解を身につけることで、より高度な思考・判断に繋がり、さらには意欲・関心を生み出すきっかけとなります。葉っぱが貧弱で薄っぺらなものであれば、幹が太く成長することも、根が地をしっかりととらえ支えることもできません。

幹—テストで測りにくい学力(思考・判断)

まっすぐに上へ上へと伸びる幹は、根からの水分や養分を樹木全体・葉の末端にまで送り届け、一方、葉から生成された栄養を受け取り、根の先端にまで行き渡らせる働きをしています。また、広く悠々と伸びた枝は、その先に生い茂る葉をさらに広く大きく拡げ、空から降り注ぐ陽の光をよりたくさん浴びることができるようにします。

思考力・判断力・表現力といった力が、根から葉へ、葉から根へと養分(学力)の受け渡しをしていく中で、少しずつゆるやかに太く確かなものになっていきます。一見すると、成長の度合いが分かりにくくても、細くなったり弛んだりすることはありません。思考・判断に関わる『考える』力は、知識・理解と、関心・意欲の間にあって少しずつ、ゆるやかに、しかし着実に豊かなものへと成長していくのです。

根—点数化できない学力(関心・意欲・態度)

根は通常、地中にあって目に見えることはなくても、樹木全体を支え、地中からの水分や養分を支える文字通り『根本(こんぽん)』という役割をはたしています。

関心や意欲は、ぱっと見では分かりづらく、じっくりと観察し深く関わり合うことを通して見えてくるものです。この見えにくい力である『関心・意欲・態度』が十分に育っていなければ、十分な水分や栄養を幹や枝、葉に送ることができず、さらには樹木全体を支えることもできず倒木してしまうでしょう。植樹をするとき、一番大切なことは『しっかりと根付くかどうか』です。根が貧相では、いかに太陽が照りつけていてもその樹は枯れてしまいます。しっかりと土壌に根付くまであたたかく支援し、丁寧に世話をし、与える水分や肥料をたっぷりやったり、多く与えすぎないようにしたりする中で、樹は少しずつ成長していくのです。

学力を育てる(志水宏吉)

『学力の樹』のイメージについての詳細をはじめ、近年の子どもたちの学力低下についての綿密な実地調査と分析、さらには学校と地域、家庭がどのように子どもたちの学力を捉え、育てていけば良いのかということについての明解な回答が示されています。

ぜひご一読をおすすめします。

学力を育てる (岩波新書 新赤版 )

新書: 224ページ
出版社: 岩波書店 (2005/11/18)
ISBN-10: 4004309786
ISBN-13: 978-4004309789
発売日: 2005/11/18

スポンサーリンク
レクタングル
レクタングル

フォローする

スポンサーリンク
レクタングル