【最低賃金以下の教師の給与】時給936円の現実と働き方改革

働き方改革

日本の学校現場で問題視されている教師の超過勤務。過労死ラインとされる月80時間を超える勤務を強いられる教員の割合は、小学校で3割。中学校に至っては6割という実態が常態化しています。

 

5年前、2013年11月に下記の記事を書いたところ、大変多くの反響をいただきました。

公立教員の初任給、時給679円!?
公立小学校の教員の給与を、財務省が来年度から1.7%削減する調整を行っているといいます。年収が400万円の教員で年間7万円。年収が600万円の教員で年間10万円の引き下げということになります。 そんな中、OECD(経済協力開発機構)よ...

 

日本の教育現場がいかに冷遇されているか、数字で見ると如実に表れることがわかります。

 

OECDの最新データから見る日本の現状

このほど、OECD(経済協力開発機構)より『図表で見る教育2018(Education at a Glance)』が公開され、世界各国の教育に関する調査が発表されました。

Education at a Glance - OECD

 

この中で、OECDは高等教育の学費の高さや、幼児教育についての課題について指摘する一方、教員の勤務時間の長さについても言及しています。

Teachers work longer hours than in other OECD countries, and are required to participate in tasks other than teaching, such as student counselling, school management or extracurricular activities.

–日本の教員は、OECD諸国よりも長時間勤務し、学生との相談や校務、課外活動など、「教えること」以外の仕事を余儀なくされている。

 

そこで、前回同様、2018年現在最新のデータを用いて各国の教員の待遇を比較する中で、日本の教育現場の現状と今後の展望について考えてみます。

 

世界各国の法定年間給与の比較

下のグラフは、OECD『図表で見る教育2018(Education at a Glance)』による、2017年のOECD主要加盟国の年間給与(法定給与)の比較です。

紫のグラフは初任者(採用1年目)の年間給与、水色のグラフは15年経験者の年間給与を表しています。(単位:USドル/年間)

 

15年経験者(水色のグラフ)を比較するとOECDの平均年収を上回っていますが、日本の初任者の年間給与は、OECDの平均である32,258ドルよりも1500ドル以上低い水準です。

 

2018年の平均レート(1ドル=約110円(110.2278円))で計算すると、日本の初任者の平均年収は337万円という計算になります。

 

世界各国の法定勤務時間の比較

それでは、世界各国の年間の法定勤務時間はどのくらいなのでしょうか。下のグラフは、同調査による各国の法定勤務時間を比較したグラフです。(単位:時間(年))

 

OECD加盟各国と比較しても、日本の教員は勤務時間が長いといえます。OECDの平均と比較すると、年間で250時間以上も長く働いているということになります。

しかし、これは『法定勤務時間』であるということをわすれてはいけません。つまり、8時30分から17時の定時まで、途中の休憩も含めた1日『7時間45分』を20日/月、これを12ヶ月分として計算した数字です。

もちろん、多くの教員が時間外勤務や家庭に持ち帰っての仕事を余儀なくされており、実際の勤務時間はこれを大きく越えていることは明らかです。

 

仕事量が多すぎて疲弊する教師たち 月80時間残業もあたり前
1970年代後半から1980年代前半にかけ、第2次ベビーブームの子供たちの就学に合わせて大量に採用された新任教師たち。長年にわたって教育現場を支えてきた彼らが、今年、定年退職のピークを迎えた。ベテラン教師が大量に現場から姿を消す一方で、ゆとり教育を受けて育った

 

1時間あたりの給与(時給)の世界比較

それでは、世界各国の初任給を法定勤務時間で割った1時間当たりの給与(時給)を比較してみましょう。(単位:USドル(時))

日本の初任者の1時間当たりの給与(時給)は、OECD加盟各国と比較すると、4ドル近く低い事が分かります。しかも、比較した主要な加盟国のどの国よりも低い水準です。 2018年の米ドル対円相場(1ドル=約110円)で計算すると、1,793円となり、場合によっては大学生がアルバイトで行う家庭教師の時給よりも低いという結果です。

しかし、わすれてはならないのは、この結果が『法定勤務時間』で割った金額であるということです。8時30分に学校に到着し、勤務途中に45分の休憩を取り、5時に退勤している教員が、一体どれだけいるでしょう。

 

ここで、平均的な初任者の生活を元に、実際の平均的な時給をシミュレーションしてみます。

 


8時過ぎの始業時間に合わせ、教室整備などの時間を確保するために7時30分に学校に到着。

9時前から1時間目の授業が始まり、4時間目が終わると給食の指導

昼休みは子ども達のための休み時間であって、教師にとってはまだまだ仕事の時間。

5時間目、6時間目の授業が終わり、子ども達が下校。この時すでに15時半

子ども達の学習したドリルやプリントの採点コメント入れをしていると、職員打ち合わせの時間。

打ち合わせが終わる頃には、退勤時刻の17時

学年の先生との週案作成学年通信(学年便り)の検討、学年行事の計画等々。

ようやく自分だけの時間が取れたのが18時

その後、初任者研修である授業の指導案作り

そうだ、集金袋の確認もしなければならない。

月末だから、出席簿も整理しなければ。

欠席した子の電話連絡も、このくらいの時間ならご在宅かな。

事務作業等々が終わったのが19時

ようやく、明日の授業準備。

指導内容の確認、黒板に掲示するための資料作成プリントの印刷、ICTを使った資格的補助のためのスライド(パワポ)作成・・・

ようやくこの日の勤務が終了。20時


 

必ずしも大げさではない1日の流れではないかと思います。

このシミュレーションでは、1日の勤務時間は休憩時間なしの12時間半。

残業時間は約5時間となります。

 

土日のサービス残業を全くしなかったと仮定して、1ヶ月20日の勤務を12ヶ月

年間の勤務時間は3000時間となります。

 

この平均的な初任者の時給はどのくらいになるのでしょうか。

 

 

過酷な状況下でのシミュレーション

実際に、報道などで明らかになっている深刻な長時間労働下ではどうでしょうか。

部活動指導が長時間労働の温床となっている中学校の例や、小学校での過酷な現場を例に検証します。

 

教師の1日。問題点と改善点
教師の1日。教師として働いていると毎日の激務に追われて振り返

 

 

これらを参考に、

朝7時に出勤、夜9時に退勤(休憩なし)

土日のうち、週に1日5時間の残業(月4回)

と想定してシミュレーションしてみます。

 

1日14時間×20日 + 土日出勤5時間×4日 = 300時間(月)
これが12ヶ月、1年間ではどうでしょうか。
時給は、936円ということになります。
これは、厚生労働省が定める最低賃金時間額(東京都)985円を下回る水準で、特殊な給与体系(※1)である教員の厳しい待遇が浮き彫りとなっています。
※1)公立学校の教員は、その勤務態様の特殊性から、給与月額の4%を支給する代わりに、時間外勤務手当(残業代)は一切支払われない

今後の展望・・・

前回、2013年の記事でも述べた通り、日本の初任者を含む教員の待遇は、非常に厳しいものとなっていることは明らかです。

 

優秀な人材を誘致できない

OECDは2013年の時点で「日本の初等・中等教育の教員の初任給の低さは、優秀な人材を教職へと誘致する上で大きな課題になるだろう」と警鐘を鳴らしていました。そして、それは今、現実のものとなりつつあります。実際に、教員採用試験の志望倍率は年々低下の一途をたどっており、今年度の一部都道府県では1%台にまで下落しています。

 

教員採用試験倍率 小学校1・2倍 19年度新潟県 全国で最低 
 県教育委員会が2019年度の採用に向け実施した教員採用試験で、小学校教諭の競争倍率が1・2倍に落ち込み過去最低だったことが8日、分かった。全国の都道府県教委への新潟日報社の取材によると、北海道(札幌 ...

 

精神疾患等による病気休職者

文部科学省の調査によれば、平成28年の病気休職者は1年間で7,758人。精神疾患による休職者は4,891人。合計すると1万人以上の教職員が何らかの理由でたった一年のうちに現場を離れざるを得ない状況にあります。

理由はさまざまですが、長時間勤務が大きな原因の一つであることは明らかです。早急に事態を改善することが、現場で働く教師を救うばかりか、めぐりめぐって、子ども達を救うことにもつながるのではないでしょうか。

 

現場レベルでできる働き方改革の推進を

行政が行うべき改革が早急に行われなければならないのは言うまでもありません。しかし、現場は刻一刻と歪みを増しています。

 

現場レベルでできる働き方改革を、管理職が中心となって進めていく必要があります。文科省でも、事の深刻さを受け、平成29年度には「学校における働き方改革に関する緊急対策について」を発表。各自治体の教育委員会や、学校管理者に向け、教師の負担軽減に向け、働き方改革を行うよう具体的な方策を示しました。また、平成31年には、さらに具体的な方策について示させる予定となっています。今後の動きに注視が必要です。

学校における働き方改革に関する緊急対策について:文部科学省

 

以下のページも是非参考にしていただければと思います。

#RED for ED
#RED for ED とは 『#RED for ED』をご存知ですか? (英文サイトです) 「#RED for ED」は、アメリカのアリゾナ州やノースカロライナ州で始まった教育行政の改善を求める運動です。 ...
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