中学校教員の部活動指導 ブラック脱却の手がかりとは

教師の働き方の改革が叫ばれています。

特に、中学校の教員の忙しさは、世界一とも言われます。

 経済協力開発機構(OECD)は25日、2013年に34カ国・地域を対象に中学校レベルの教員の勤務環境を調べた「国際教員指導環境調査」(TALIS)の結果を公表した。日本の教員に占める女性の割合は39

日本の教員の平均勤務時間は週53.9時間となり、参加国・地域中最も長く、平均(38.3時間)の1.4倍だった。

『日本の教員、勤務時間が最長 OECDが中学調査』日本経済新聞 より

あまりの多忙感から、心身に疾患をきたしている教員も少なくありません。

先生方のメンタルヘルスの現状は、どうなっているのでしょうか。教員のメンタルヘルス - Yahoo!ニュース(ベネッセ 教育情報サイト)

忙しさを助長する根本的原因は何なのでしょうか。

様々な要因が考えられると思いますが、原因の大きな一端となっているのが「部活動指導」であると考えています。

部活動指導は教師の職務か

部活動指導は、そもそも教師の職務、つまり、やらなければならない仕事なのでしょうか。

教師は公務員である以上、職務に専念する義務があります。(地方公務員法第30条)

ですから、教師として全力で仕事をし、国民全体の奉仕者として仕事に従事しなければならないわけです。

一方、職務に専念しなければならない以上、それに充てる勤務時間についても明確な定義があります。

6時間をこえる労働については、45分以上の休憩時間をとるよう労基法で規定されていますから、教員の実質の勤務時間(労働時間+休憩)は8時間30分ということになります。

スクリーンショット(2017-06-24 11.23.07)

これを踏まえて、部活動指導は教員の職務として規定されているのでしょうか。

現行の学習指導要領によれば、

生徒の自主的、自発的な参加により行われる部活動については、スポーツや文化及び科学等に親しませ、学習意欲の向上や責任感、連帯感の涵養等に資するものであり、学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること。

『学習指導要領「生きる力」第一章総則』より

とあります。

つまり、学校で行われる教育活動のうち、授業時数として計上する教育課程とはべつに、教育課程外として部活動は位置付けられています。

授業時数として部活動の指導時間を充てない以上、教育課程との関連を図るという部分の説明さえつけば、教師が必ずしも部活動指導を行わなければならないということにはならないわけです。

つまり、解釈の仕方によれば、

「部活動指導は職務ではない

「部活動と教育活動の関連を図ることが職務」

というふうに読むことができます。

必ずしも、教師が部活動の指導にあたらずとも、教育活動との関連を図るために部活動運営の調整役となればよい、ということです。

現状はどうか−部活動顧問

少し古いデータにはなりますが、平成18年度の「文部科学省教員勤務実態調査」によれば、中学校教員のうち、

運動部顧問 58.5%

文化部顧問  17.7%

顧問なし    13.7%

となっています。

つまり、全体の76.2%の教員が、何らかの部活動の顧問として校務に割り当てられていると言うことになります。

では、実際にどのくらいの時間を部活動指導に充てているのでしょうか。

文部科学省による「教員勤務実態調査(平成28年度)の集計」によれば、

平日の部活動・クラブ活動の勤務時間の平均は41分

休日は2時間10分という結果でした。(いずれも1日における平均時間数)

しかし、この数値は、平均値であるということを念頭に置く必要があります。

つまり、全ての部活動顧問が、毎日部活動を行なっているとは限りませんし、名前だけの顧問ということもあるでしょう。

すべての数値を平らに均した平均なのですから、実態とはかけ離れたデータかもしれません。

先ほどの『平成18年度「文部科学省教員勤務実態調査」』に、興味深いデータがありました。

・1日の行為者率:部活動顧問等のうち、1日の中で実際に部活動を行った部活動顧問等の割合(%)

・行為者平均時間:部活動を行った部活動顧問等が実際に部活動に費やした時間の平均

第2期(8月)勤務日

第5期(11月)勤務日

第5期(11月)休日

行為者率

平均時間

行為者率

平均時間

行為者率

平均時間

運動部顧問

62.6

4:46

41.3

1:38

37.7

5:56

文化部顧問

40.7

4:38

31.0

1:31

14.4

5:49

顧問なし

6.0

4:44

2.0

1:25

1.6

5:06

(平成18年文部科学省教員勤務実態調査のデータを基に分析した「教員の業務の多様化・複雑化に対応した業務量計測手法の開発と教職員配置制度の設計」(平成20年3月国立大学法人東京大学)第2分冊第10章をもとに事務局作成)

つまり、純粋に部活動の指導に当たった教員(行為者)のみの平均を出した、というデータです。

第5期(11月)勤務日、という項目が、「平日」にあたるわけですが、運動部顧問は1時間38分、文化部でも1時間31分、指導にあたっていると言うことがわかります。

管理職から部活動顧問の依頼をされれば、断りにくいのが現状です。

「特別な理由なしに、顧問を引き受けないというのはどうか」

「すべての教員にお願いしているのだから、あなたにも任せたい」

といった具合に勧められ、結局部活動顧問を引き受けてしまう、というのが多くの教員にとって現状ではないかと思います。

勤務時間内に部活動指導は実質無理

もう一度振り返って見ましょう。

公立小中学校の教員の勤務時間(労働時間+休憩時間)は、8時間30分です。

6校時まである中学校だと仮定して、6校時の終了時刻が15時前後であることが多いようです。

学校によっては、15時半や16時近い中学校もあるようです。

8時から勤務した場合を考えると、退勤時間は16時30分です。

授業を終えた後に、先ほどの部活動指導時間分の勤務をしたとします。

どう考えても、他の事務作業や授業準備等の時間は取れそうにありません。

教員に部活動指導を担当させるということは、実質、「超過労働を前提に働きなさいよ」と宣告していることと同じことであると言えます。

現状の勤務形態におけるデメリット

現状のまま、教師に無理をさせて仕事をさせておけば、当面は教育制度を維持できるかもしれません。

しかし、そう遠くない将来、日本全体が大きく傾くような事態を招きかねない危険性を、この問題は孕んでいるような気がしてなりません。

失言問題でかつて話題になった中山成彬元国土交通相はこう言います。

さて、一つ提案がある。教師の給与を思いきって上げることだ。(中略)昔から教育は教師力という。教える力と子供を愛する心を持った人材がどんどん教育界に入ってきてほしい。

「教育がすべて」より

教員の質の低下

これは大問題です。

教員の質の低下につながる理由には、いくつかの側面があります。

1つは、教員に時間的余裕がないので、授業力を高めることができなくなってしまうということです。

勤務時間の中で、授業準備や教材研究をすることは、前項でもお伝えした通りかなり厳しい状況です。

さらに言うと、それぞれの教員が多忙を極めると、ベテラン教員が若手に指導する、といった「技術の継承」も行われにくくなるという側面もあります。

2つめに、教員のなり手が減ってしまうという点です。

先ほどの中山氏のコラムにもありましたが、優秀な人材であればあるほど、教員という職業がいかに「ブラック」で、「だれ得」なものであるかに気づきます。

割りに合わない職業にすすんで飛び込んでくるような優秀な人材はそうそういないものです。

3つめは、採用試験の倍率の低下です。教員になりたいと希望する人が減れば、倍率も下がっていくのはあたりまえのことです。実際、採用試験の平均倍率は、平成5年以降で最も低く、4.9倍となっています。(平成28年度)

平成28年度(27年度実施)公立学校教員採用試験 実施状況 平成28年度(27年度実施)公立学校教員採用試験の実施状況を本紙調べで集計した。全国69県市の平均倍率は前年度から0.2ポイント下がり、4.9倍となった。倍率は平成12年度採用の13.3倍をピークに下降傾向にあり、平成5年度採用以降の23年間で最も低くなっ

すでに、小学校の教員採用では、高知県や山口県が2.2倍、広島県が2.3倍など、2人に1人が合格できてしまうという状況です。これでは、「だれでもござれ」状態、質の良い人材を確保することとは遠くかけ離れた現状であると言うことは言うまでもありません。

子どもたちへの影響

「子どもたちは、国の宝」とよく言われます。

その子どもたちを、良くも悪くもするのが教育の責任というものです。

教員の質が下がっては、日本の未来を担う子どもたちの力を十分に伸ばすことはできません。

アメリカの革命家、マルコムXの有名な言葉があります。

教育こそが未来へのパスポートだ。明日という日は、今日準備をする人たちのものである。

教育をないがしろにしては、国は傾きます。フィンランドは、教育に重きをおいた政策で90年代の不景気を打開しました。日本も今こそ転換を迫られる時期に来ているのではないでしょうか。

部活動問題を根本から解決する方法は

部活動指導の問題を解決するには、思い切った政策(転換)が必要だと考えています。

ずばり、教師の仕事(業務)から、すっぽり部活動指導を抜き取ってしまうというものです。

部活動指導は、完全に「部活指導員」に委託、分業します。

「例外なく」です。

スクリーンショット 2017-08-05 11.32.55

「部活動指導員は」、現在も様々な自治体で導入されていますが、自治体により待遇や制度にばらつきがあるのが現状です。

そこで、「部活動指導員」として、「正式な職」として、県や市町村単位で採用をします。

こうすることで、現在の「臨時的任用職員」や「非常勤講師」と同等の待遇、服務等を保証します。

感覚とすると、「学童保育の指導員」や「地域のスポーツクラブ」に近いイメージです。

気になるのは財源ですが、これは前項でもお伝えした通り、教育にはお金がかかるものです。

学校業務改善アドバイザーなどにお金をかけるなら、よっぽどこちらの方が業務が改善されるはずです。

しかし、教員の中にも部活動指導を是非ともやりたい、という熱心な先生もいます。

こういう教員は、一部副業として「部活動指導員」を引き受ける形にします。

ただし、教育公務員は法律により副業が禁止されています。(地方公務員法第38条)

ここの部分については、法改正が必要であったり、解釈を広くしたりする必要があるかもしれません。

しかし、こうすることで、教師は部活動指導から解放され、本来の職務に専念することができます。

さらに、部活動指導も進んで行いたいという教師は、別待遇のもと適正な給与が与えられます。

中学校教員を志望する学生の中には、志望動機が「部活動指導がしたいから」という人も少なからずいます。

こういった人たちは、そもそも「部活動指導員」という職業に就けばよいのです。

そのためには、「部活動指導員」としての給与だけでも、それを本職として生計が立てられるような待遇にしていく必要があります。

また、「部活動指導員」という職種の周知、知名度の向上など、課題や問題点はさまざまありそうです。

財源の問題、法令の問題、人材確保の問題など、課題も目立ちますが、それによるメリットも大きいように感じます。

本来の職務に十分に専念できるために

現在、教員の置かれた立場は非常に厳しいものになっています。

しかし、子どもたちの成長に直接関わることができ、喜びも辛さも共有できる、他の職業にはないやりがいのある職業だと感じています。

だからこそ、志の高い人が、適正な勤務体系と待遇をもって仕事ができるような、魅力的な職業にしていくことが必要です。

教育こそが未来へのパスポートです。

まずは、職員室の中からムーブメントを起こしていきませんか。

スポンサーリンク
レクタングル
レクタングル

フォローする

スポンサーリンク
レクタングル